『電動車と付随車』

はじめに

電車関連のウェブなどを散策していると、MT比やらユニットやらと専門用語が登場してきます。

MTってなにさ?あ、たしか教習所でならったような、マニュアル車だっけかって、電車にクラッチってあるのかいな?昔ガソリンカーと呼ばれる車両にはあったそうですが、電車にクラッチはないです。じゃぁMT比とかユニットやらはいったい何を意味するのでしょうか?

M車とT車、ユニットってなんなのさ?

たとえば路面電車のように一両での動作を前提に設計されていると、1つの車両に動作に必要な機器、パンタグラフや電車を制御する装置、ブレーキ用の圧縮空気を作る装置、車内で使う電気を作る装置などを全て搭載し両方に運転台を用意する必要があります。

図

これを2両編成で利用するならば運転台は片方でいいですよね。さらに搭載されているモーターの性能がいいのならば2両ある車両のうち片方にモーターを搭載しておけば、片方はモーターなどを搭載していない客車のようなものにしていいというワケです。

図

これが電動車(モーターがついている方)と付随車(モーターがついていない方)という概念です。マニア(業界?)の間では電動車をモーター(Motor)の頭文字をとってM車、付随車をトレーラーの頭文字をとって(Trailer)T車、また運転台がある車両は(Controller)の頭文字をとってcを加えてMc車やTc車などと呼んだりします。

3両以上の場合は、『電動車、付随車、電動車、付随車・・・』と交互に並べていくという方法がもっとも単純です。ここで、電動車が2両以上ある場合は単純に電動車を2つ用意するよりも、必要な機器を2つの電動車で分散させて共有するという方法を考えた偉い人がいたわけです。例えば、パンタグラフを片方に、もう片方には電車を制御する装置を用意するといった感じです。これがユニットという概念で、2両で動作するようになっているので1両では使用することはできませんが、機器が2両で共用される分1両あたりの重さも価格が下がってウハウハというワケです。

図

だいたい2両単位のユニット式が一般的なようで、長い編成では2両1ユニットのユニットを複数と付随車で構成しています。もちろん3両で1つのユニットというのもアリで、実際に新幹線の300系は3両1ユニットだったようですが、コストと使い勝手を天秤にかけるとちょうど2両1ユニットくらいが使いやすいようです(例えば3両1ユニットだとコストは下がるかもしれないが、最低でも3両編成以上しか作れず、また3両ずつしか電動車を増やせないので使い勝手は悪くなる)。

電動車と付随車の比率はその電動車の出力や、路線にある勾配(坂)のきつさ、さらに駅の間隔や必要な加速度などにもよりいろいろな条件を総合して決められます。一般に編成による電動車と付随車の割合をMT比などと呼び、例えば10両編成で電動車が8両で付随車が2両なら8M2Tとなります。田園都市線の8500系は8M2Tで2000系は6M4Tとなっています。

※8500系の編成について詳しくは『8500系の種類』を参照してください。

東急では、一般に主制御装置とパンタグラフを持った電動車(M1)と、M1車とユニットを組む電動車(M2)と呼び、それに付随車を加えた構成されていることが多いようです。また、編成によっては電動車の数が偶数にならずにユニットを組まない単独電動車(M車)を採用したりします。ちなみに、8500系はM1車がパンタグラフも主制御装置も搭載しているのでM1車単体でも利用できるようです。

1C4Mとか、1C8Mとかって?

一般に電車は台車と呼ばれる車輪が4つついたアレが2個搭載されています(というか2個の台車に乗っかってるという表現が正しいかも)。

図

台車には2本の車軸があって、1つの軸に2つの車輪がついているので4つの車輪がついています。一般的にはモーターを1つの車軸に1つ搭載するので、1つの台車に2つモーターが搭載されることになります。1両には2つの台車があるので、つまり1両には4つのモーターが搭載されているということになります。

図

ユニットで1つの電車を制御する装置が搭載されている場合、2両分で8個のモーターを制御することになります。これを制御装置(Controller)の頭文字とモーター(Motor)の頭文字をとって1C8M制御とよばれます。これに対して1つの車両に1つづつ制御装置を搭載する場合は1両分の4つのモーターを制御するので1C4M制御と呼ばれます。

JRの記号

東急8500系のページなんですが、余談ながらJRの記号についてちょっと考察をしてみましょう。

JRでは101系以降(高性能車と呼ばれるらしい)の車両では、ユニット方式を採用しています。基本的にはモーターを制御する御装置を持ったM車とパンタグラフと圧縮空気を作る機械(ブレーキなどに使う圧力の高い空気を作る)を持ったM'車でユニットを組み、場合によっては付随車を携えて編成を構成します。

さて、その形式番号の前にクハやらモハやらのカタカナの記号が出てきます。これらは鉄な人でなくても聞いたことくらいはあるのではないでしょうか?この記号はものすごくたくさんあるのですが、通勤電車では『クハ』と『サハ』と『モハ』及び『クモハ』がほとんどを占めると思います。

クハは上記の書き方でいうならば『Tc車』にあたり運転台つきの付随車になります。またクモハは『Mc車』にあたり運転台つき電動車になります。ちなみに『ク』は(運転台が)っついてるのくなんだとか。

サハは上記の書き方ならば『T車』にあたり運転台がない付随車になります。『サ』は(電動車に)はまってるのさなんだそうです。(ハは後述の普通車の意味で使われるので次の文字のが使われているのではないかと。)

モハは上記の書き方ならば『M車』にあたり運転台がない電動車になります。『モ』はいわずと知れたーターのモです。電動車で運転台もある場合はの両方がついてクモハになります。

また『ハ』はイロハの三番目を意味し、三等車という意味でしたが、現在は普通車という意味で使われます。ちなみにグリーン車は二等車にあたり、『ロ』が使われます。三等制から二等制に変わるときに一等は廃止されたので現在は『イ』を名乗る車両は存在しません。

ちなみに東急ではモーターが搭載されている車両を運転台にかかわらず『デハ』と呼び、あとはJRと同じように『クハ』やら『サハ』やらと呼びます。

ところで、JRでは通勤型の101系の後継は103系です。さらに105系と続きます。あれ?偶数がない?あ、ひょっとして縁起が悪いとかで除いてる?

そうではありません、JRでは101系以降ユニット方式を採用しているのですが電動車の形式の記号は『モ』しかないので、どちらのユニットも区別できなくなってしまいます。そこで、制御装置を搭載した方を一つ数字を多くして、例えば103系のM車は『モハ103』でM'車は『モハ102』です。系列をM車の型番からとったので、系列だけみるとまるで偶数が飛ばされたかのように見えるのです(例えば101系には『モハ101』と『モハ100』が含まれている)。