α7 S with Jupiter-12

はじめに

Jupiter-12は旧ソビエト連邦(ロシア製)のレンズです。ロシア出張の際にお土産で買ったもので、お値段950ルーブル(1900円)。もともと欲しかったレンズで、値段も日本で買うよりもずいぶんと安かったので飛びつきました。

写りの方は、彩度が低く周辺光落ちがあるので、いかにもオールドレンズという雰囲気の写真が楽しめます。それに対して、解像度の方は開放から中央部は想像以上にシャープで繊細な仕上がり。街撮りに適した35mmの広角で、普段見慣れた風景が違った見え方になるのが新鮮な、遊び甲斐のあるレンズだと思います。

ちなみに、ロシア語ではЮпитерと書きますが、Юがユ、п=P и=I、р=Rに相当するのでユピテルと読むようです。

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Jupiter 12 35mm F2.8

第二次世界大戦でドイツに勝利したソビエトは、ドイツのレンズ技術者や製造装置をソビエトに連れて行きました。こうして、ロシアではカールツァイスのレンズをベースとしたコピーレンズが数多く登場しています。ただ、コピーといっても技術者や製造装置を連れてきて行っているので、パクりというよりかは現地工場のイメージに近いかもしれません。

Jupiter-12はカールツァイスの名設計者ルートヴィッヒ・ベルテレ氏が1934年に設計したBiogon 35mm F2.8のコピーと言われていて、これは同氏が設計したSonnarを広角向けに発展させたものです。Biogonは現在もコシナから復刻版?が販売されていることからもその人気が分かると思います。

なお、カールツァイスの広角レンズはBiogonの他にDistagonも有名です。Biogonは構造上フランジバックを短くする必要があり、ミラー機構がある一眼レフには使えなかったため開発されたのがDistagonです。Biogonは対象型で歪曲収差が少ないのが特長で、一方Distagonはレトロフォーカス型で周辺光落ちが少ないのが特長です。

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このレンズは見た目が特徴的で、うしろに思いっきりレンズが飛び出しています。上の左写真は後玉にキズがつかないようにカバーが付いた状態ですが、外すと下の左写真のようになります。マウントアダプタを付けても下の中写真のようにマウント面からレンズが飛び出します。

このため、α7シリーズは大丈夫ですが、ミラーレスカメラでも機種によっては内部に干渉する場合があるようです。取り外したレンズの置き方に注意しないとレンズを傷つけてしまいます。製造時期が古いものは後玉の周囲にカバーがあるのでレンズ保護の観点では有利ですが、干渉という面ではさらにシビアかもしれません。

ちなみに、正規のコンタックスのカメラでも機種によっては内部で干渉し、戦後のコンタックスIIa/IIIaには取付けられないそうです。店のおっちゃんが心配しくれて、「これはカメラを選ぶぞ、お前のカメラは何だ?」的なことを色々と聞かれました。どうでも良い話ですが、ロシア語ではアダプターはアダプトールと発音するようです。そういえば、昔タムロンのマウント交換システムの名称でそんなのあったなぁって思いました。

本体が銀色のタイプと黒色のタイプがあります。本当は銀色が欲しかったのですが、状態の良いものがなかったので仕方ありませんね。

ロシアのレンズは製造番号の先頭2桁が製造年月なので分かりやすいです。このレンズは1981年製ですが、品質は古い方が良いようなので、これはあまり人気のないタマですね。また、製造工場がいくつかあり(工場ごとの品質に大きな差は聞かれない)マークで見分けることができ、このレンズはマーク(右写真)よりLZOS製のようです。

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このレンズはライカLマウントのものもあるようですが、私の買ったのはCONTAX C(オールドコンタクス)マウントの外爪タイプです。私はJupiter-8Mのために買ったKIPON社製のCRF-NEXというアダプタを流用しましたが、外爪タイプは内爪タイプと違ってピントリングがレンズ側にあるので、外爪専用の比較的安価なマウントアダプタもあります。

写りの印象

まず発色が独特で、淡いというよりも色あせたフイルムのように彩度が低いように感じられます。さらに、ビオゴン型の弱点として上げられる周辺光落ち(ベネッティング)がゆるやかに効いて、ありふれた風景が古いフイルム写真のようなアジのある作品に仕上がるのがたまりません。これぞオールドレンズといったところ。

しかし、そんな発色とは打って変わって解像度については開放から中央付近が恐ろしくシャープで緻密な写りをします。開放では周辺部が目に見えて乱れますが、F5.6~F8まで絞れば写真として見る分には周辺まで充分な解像度で撮れると思います。また、ビル群など歪みが目立つ場所も、とくに歪曲収差は感じられないのはビオゴン型ならでは。

なお、このレンズは操作性がイマイチで、絞りリングが前面内側についています。絞りを動かした拍子にフォーカスリングが動いたりするので、絞りを決めてからフォーカシングをしていますが、被写体深度が深くなるとピントを合わせるのが難しくなります。また、レンズ後玉が飛び出しているので、取り外しにかなり気をつかうのも難点です。

私は風景写真が好きなので、35mmという広角レンズは手軽に使えて便利だと思います。それでいて見慣れた風景でオールドレンズならではの独特の雰囲気が味わえる楽しいレンズだと思います。コンパクトなレンズので他のレンズと一緒に一本持って行こうか。。。と思うのですが、気軽に交換できないのが玉にキズなんですよね。

手軽に使えるようにレンズキャップを作ってみました。→Biogon 35mm F2.8

作例

α7 S + Jupiter-12 ISO1600 F5.6 1/640 +0.3 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO1600 F8.0 1/1000 +1.3 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO1600 F2.8 1/1000 +0.7 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO100 F2.8 1/8000 -2.0 B/W

α7 S + Jupiter-12 ISO50 F2.8 1/500 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO50 F2.8 1/500 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO12800 F8 1/20 B/W

α7 S + Jupiter-12 ISO100 F2.8 1/1250 +0.7 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO100 F2.8 1/200 -1.0 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO100 F2.8 1/80 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO125 F2.8 1/60 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO100 F2.8 1/80 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO125 F4 1/60 -0.7 Vivid

α7 S + ISO200 F2.8 1/60 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO125 F4.0 1/60 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO250 F2.8 1/60 -0.3 Vivid

α7 S + Jupiter-12 ISO100 F2.8 1/6400 -0.3 B/W

α7 S + Jupiter-12 ISO100 F2.8 1/3200 -0.3 B/W

α7 S + Jupiter-12 ISO100 F2.8 1/80 Vivid