『PCオーディオ』

はじめに

最近、シニア世代のやや時間とお金(←これ重要)にゆとりのある方々を中心に、PCオーディオというものが密かに流行っているようです。ここではPCオーディオについてお話ししたいと思います。

そもそもPCオーディオとはなんぞや?

『PCオーディオ』という言葉が最近になってよく聞かれるようになりました。PCで音楽を聴くことができるようになってから久しいですが、普通にPCで音楽を聴くのとの違いはどこにあるのでしょうか。

いや、私もいろいろと調べましたが、具体的に『どこが違う』という決まりはないようで、どちらかというとオーディオの世界から見て、『CD』や『カセット』などのオーディオ機器の一員としてPCを使うということを言うようです。

とはいえ、ポータブルラジオをオーディオとは呼ばないように、単に音が鳴れば良いというものではなく、あくまでオーディオの一員として、一歩進んだ音質で再生できるPCを指しているようなので、『PCオーディオ』とは『高音質なPCをオーディオとして使う』という意味で捉えておけば良いようです。

写真

なぜ今、PCオーディオなのか?

もともとPCの音質はイマイチでしたし、操作もPCとオーディオとではかけ離れていたので、WalkmanやiPodなどで気軽に音楽を楽しむ人達がPCを使うようになってからも、オーディオでジックリ音楽を楽しむ方々からは長らく敬遠されていました。

しかし、最近では音質もお金さえかければPCの音質もオーディオに匹敵するレベルにできますし、PCが生活に溶け込んできたため操作に関しても多くの人が慣れてきました。そして、日進月歩ですすむ多くの技術によって、今までのオーディオでは得られない様々なメリットも享受できるようになりました。

こうして、とくに音楽にコダワルようなリスナーがPCで音楽を聴く環境が整ったことで、ジワジワとPCをオーディオとして使う人が増えてきて、それに伴ってPC周辺機器メーカーも高品質な音楽再生を可能とするオーディオインターフェースなどをこぞって発売するようになりました。

つまり、PCオーディオは何か革新的なことが起こったと言うよりも、PCのオーディオ機能が成熟してきたということなのでしょう。

PCオーディオの利点と欠点

PCオーディオの利点と欠点を簡単に纏めてます。

PCオーディオの利点(音質)

オーディオではCDが主流ですが、CDを音楽プレーヤーで再生すると読込みと再生を同時にしなければなりません。キズがあっても読込みに失敗しても基本的には戻って再度読込みすることはできません(実際には先読みをしており何度かはリトライするが時間的な制約により限界がある)し、音質補正などもリアルタイムで行うために高性能な専用機構が必要になり高価にもなります。

しかし、PCオーディオならば予め時間にしばられずCDを読み込んで保存しておくことができます。極端な話、1時間のCDを5時間かけてジックリと心を込めて(?)読み込んでおくことができるわけです。(ただし、リトライしなければ通常の読込速度はCDプレーヤーの1倍速よりも速いことの方が多い)

また、CDの16bit/44.1kHzの音質は、良くも悪くも1982年登場当時の技術に合わせてあり、今ではより高い品質の音楽を作ることができます。24bit/96kHzといったCDよりも音質が優れた規格で録音された楽曲を『ハイレゾ音源』と言い、これらを楽しむことができるのもPCオーディオの利点となっています。ハイレゾはHigh Resolutionの略で高解像度という意味です。

この2点がPCオーディオの音質面での大きな利点だと言えます。

デジタル世界の音質には、録音・再生時のややアナログ的な部分と16bit/44.1kHzといったスペック的な部分があります。

CDの規格(スペック)は発表当時から変わっていませんが、アナログ的な部分を改善することにより、現在ではCDも当時に比べてかなり改良されています。CDを予め読み込んでおくテクニックなども広義にはアナログ的な部分の改善に該当するのでしょう。

対してハイレゾ音源はスペック的な部分を改善することに他なりません。つまり、この両方をバランス良く改善していくことが音質の向上に重要になると言えます。

PCオーディオの利点(音質以外)

たとえば、最近のHDDでは3.5インチで4TBのものもあり、CDの容量は700MB程度なので6000枚近く入ることになります。通常はCDも容量一杯まで曲が入っていることは希ですし、可逆圧縮(音質低下を伴わない圧縮)を併用すれば1万枚は軽く入るでしょう。それが1台の3.5インチ HDDに入ることは部屋のスペースを有効に使えるようになるだけでなく、ジュークボックスのように聴きたい曲をいつでもすぐに聴けるというメリットもあります。

また、ジャケットや歌詞、メモや写真なども含めて関連するデータ(メタ情報)も一緒に管理できるのもメリットです。

PCの音楽の世界では2005年のiTunes日本上陸以来、iPodユーザーを中心に楽曲をダウンロードして購入するのが一般的になりつつあります。以前は音質がCDよりも良くなかったり、著作権保護機能により別の音楽プレーヤーで再生するのが困難だったりと問題がありましたが、今ではそういう問題もだいたい解決されているので気軽に使えるようになってきています。

私のようなヒッキーは太陽に当たらずに楽曲が買えるのがウレシイですが(笑)、品揃えも多く、思い立った時にすぐに買えるのは大きな利点と言えます。今でもコダワリのあるユーザーの中にはCDショップでジャケ買いを楽しんでいる方も少なくありませんが、ハイレゾ音源の楽曲は基本的にダウンロード販売以外は入手方法が確立されていないので、PCオーディオを余すところなく楽しむにはダウンロード販売に関してもチェックは必要だと思います。

なお、ダウンロード販売の多くがAACやMP3の256kbpsといった非可逆圧縮(音質が低下する圧縮)を使っていますが、ほとんど気にならないとはいえ音質面ではこれらよりもCDの方が上であることは付け加えておきます。

PCオーディオの欠点

PCオーディオの欠点は、一言で言ってしまえばPCが汎用品であり、『音楽を再生すること専用に作られたものではない』ことに起因していると言えます。

PCの筐体の中にはCPUやHDDなどのノイズ源がたくさん搭載されています。なので、サウンドカードなどもノイズシールドをしっかりしていないとノイズの影響を受けてしまいます。その点ではUSB DACなどPCの外にオーディオインターフェースを搭載すればノイズ面では有利になりますが、USBバスは他の機器とも共有するので音楽再生のように安定した電力とデータ転送能力が必要な機器の場合は不安があります。

同様に電源や内部クロックも各種機器を安定して動作させることを目的として設計されているので、音楽を再生することを目的としてつくられているオーディオ専用機器とくらべると不利なことは事実です。

操作面でも各種設定からスタートさせなければならないので、CDなどに比べると楽曲を聴くだけでも難しいと言えます。この点に関しては、普段からPCを使い慣れている人とそうでない人で差はありますが、敷居が高いのはたしかです。

ただし、PC内がどんなにノイジーであっても、オーディオ部分がきちんとノイズ対策が施されており、電源もクロックも独自に安定化させる機能を搭載していれば、これらの欠点をほとんど克服できます。また、操作に関しても一度きちんと設定してしまえば再生するだけであれば簡単です。

PCオーディオが流行していることで解説本なども多く登場しているので、それほどPCに詳しくない人でも熱意とお金(←ここ重要)があればPCオーディオの利点を享受しつつ欠点を補うことができるのです。

機器選び

PCで楽曲を再生する流れは、『プレイヤーソフトで再生』→『サウンド機能でD/A変換』→『スピーカーやヘッドホンで音を鳴らす』という風になります。

何で再生するのか?

楽曲を再生するためには、音楽を再生できるソフトが必要です。以前はそれなりの機能のものはお金を出して買う必要がありましたが、最近では標準でWindows Media Player(Windows)やiTunes(Mac OS)といった優秀なプレーヤーが入っていますし、高機能なフリーウェアも多数あるので新たに何か買う必要はありません。

プレーヤーソフトを選ぶ上でチェックする項目は以下のようなものになります。もちろん、全部必要なわけではなく、自分が必要だと思う機能が搭載されているかをチェックします。

  1. そもそも自分のPCで(安定して)動作するか?
  2. AACやFLACなど自分が使っているファイルフォーマットが扱えるか?
  3. ASIOやWASAPIなど音質に影響する設定ができるか?
  4. 曲の管理がしやすいか?
  5. 操作が分りやすいか?
  6. 動画も再生できるか?
  7. WalkmanやiPodをつないで曲を転送できるか?
  8. ジャケットや歌詞などの情報も表示できるか?
  9. ダウンロード販売で曲を買うことができるか?
  10. インターネットラジオを聴くことができるか?

PCオーディオらしい視点としては、2.で可逆圧縮のフォーマットへの対応や、3.でASIOやWASAPIへの対応がポイントではないでしょうか。また、意外かもしれませんが、メーカー純正のソフトでなくても、iPodやWalkmanに曲を転送できます。曲の管理もポータブルプレーヤーへの転送も1つのプレーヤーソフトで賄えれば便利です。

機能 WMP iTunes winamp foobar Audirvana
対応OS W W/M W W M
対応形式の多さ
ASIO&WASAPI/Core Audio × ×/- -
使いやすさ
曲の管理

※WMP = Windows Media Player

ここに挙げたのはごく一部で、他にもたくさんあります。私が普段使っているのも表にはないMedia Monkeyと呼ばれるソフトで、エクスプローラーライクのファイル管理が気に入っています。

WMPやiTunesは多くの人が使っていますし何より使いやすいので良いのですが、対応形式の多さやASIOやWASAPI対応を考えるとwinampやfoobar2000がオススメです。Winampは古参のメディアプレーヤーで、オールインワン的になっていて取っつきやすいです。foobar2000はシンプルで軽く拡張性が高いですが、最初は必要最低限の機能しかなく初期設定はやや敷居が高いです。個人的にはfoobar2000を使っている人は玄人なイメージがあります(笑)。

何でD/A変換をするのか?

PCでは音をデジタルで扱っていて私達の耳が聴く音はアナログなので、どこかでデジタルからアナログへ変換(D/A変換)しなければなりません。

種類 接続 音質 特徴
オンボード マザーボード上 利点 標準搭載、タダ!
欠点 音質はあまり良くないことが多い。
拡張カード
サウンドカード等
PCI/PCI-E 利点 帯域が広いので高機能にできる(スペック)。
機能に対して比較的安価。
スッキリと収納できる。
欠点 ノイズ対策が必要。
空きスロットが必要。
取付けの敷居が高い。
外付け機器
USB DAC等
USB/IEEE 利点 手軽でほとんどのPCに接続できる。
PC本体のノイズの影響を受けずらい。
標準ドライバで動くものは将来性が高い。
欠点 高音質なものは比較的高価。
USBポートの品質に左右される。
外付け機器
AVアンプ等
S/PDIF 利点 PC側はオンボードの機能を使えばタダ。
S/PDIFは標準的な規格で将来性も高い。
欠点 対応製品が少ない。
S/PDIFの品質に左右される。
ネットワークオーディオ等 LAN/Wireless LAN - 利点 接続が簡単でPCからオーディオを離せる。
ドライブレスにできるのでノイズ的に有利。
欠点 対応製品が少ない。
音質は製品によって大きくことなる。
高価なものが多い。

PCオーディオではUSB DACを使っている方が多いようです。手軽でノートPCでも使えますしノイズの面でも有利ですが、PCオーディオのユーザーがオーディオ愛好家であってPC愛好家ではないというのも影響しているかもしれません。

サウンドカードも音質の高い製品が多いですが、どちらかと言えば帯域が広い特性を生かして、USBでは実現できないよなゲームなどのサウンド機能を重視している傾向にあるようです。

また、サウンドカードやUSB DACといった周辺機器を動かすためにはドライバと呼ばれるソフトが必要です。基本的には新しいOSには新しいドライバが必要で、メーカーからドライバが提供されないと新しいOSでは利用できないことになります。新しいOSのドライバを提供するかどうかはメーカー次第ですが、メーカーによって温度差があるので、製品を購入する前にサポート体制に関しても調べてみると良いと思います。

なお、USB DACの中にはOSが提供する標準ドライバで動くものもあります。専用ドライバを使う製品にくらべて機能は基本的なものだけになりますが、この場合は新しいOSが登場しても、そのOSに搭載された標準ドライバで動作させることができるのでメーカーのサポート体制に関わらず(仮にメーカーが既に潰れてなくなっていても)将来にわたって安心して利用できると言えます。

何で音を鳴らすのか?

最終的にはスピーカーかヘッドホンで聴くことになりますが、これは音質の良し悪しではなくリスニングスタイルの違いと言えます。スピーカーにはアンプ内蔵のアクティブスピーカーと従来通りのアンプとスピーカ-の組み合わせがあります。

種類 特徴
アクティブスピーカー アンプとスピーカーが一体化したようなものです。
ピンからキリまでありますが、音質よりコンパクトさを重視した傾向があります。
(とはいえコンパクトながら高音質な製品も存在します)
オーディオセット
(アンプとスピーカー)
オーディオセットを持っていればそのまま利用できます。
音質もオーディオセット(の価格)に応じて変わってきます。
ヘッドホン USB DACにはほぼヘッドホンアンプが搭載されているのでそのまま使えます。
サウンドカード等で、アンプがない場合などは別途アンプが必要です。