Intel 855 Chipset

はじめに

このチップセットは2003年に投入されたPentium M用チップセットで、Intelのノートパソコン向けプラットホームブランドである『Centrino』の構成要素の一つです。グラフィックアクセラレータ統合チップであるi855GMと統合していないi855PMの二つのチップセットがあります。

主な仕様

スペック

チップ名 Intel 855PM Chipset Intel 855GM Chipset 備考
ノースブリッジ Intel 82855PM Intel 82855GM
サウスブリッジ ICH4-M ICH4-M
対応CPU Pentium M Pentium M
対応メモリ種類 DDR SDRAM DDR SDRAM SO-DIMM
対応メモリ速度 DDR 200/266 DDR 200/266 855PMは後期リビジョンでDDR 333にも対応
メモリの最大搭載量 2GB 2GB
最大メモリスロット数 2slot 4bank 2slot 4bank
チップ間バス Hub link Hub link
内臓グラフィック なし Extreme Graphics 2
AGP 4X 4X
PCI ? ?
IDE UltraATA100 UltraATA100
USB USB 2.0 3channel 6prot USB 2.0 3channel 6prot
付加機能 LAN/Audio(AC'97) LAN/Audio(AC'97) 物理層のみ
その他 拡張版Speedstepに対応 拡張版Speedstepに対応

特徴

このチップセットの最大の特徴はPentium Mに対応している点でしょう。またそれによって拡張版Speedstepをサポートするなど省電力機能を追加さています。またPentiumM同様にチップセット自身も省電力を考えて作られており、チップセットの電圧が従来の845シリーズや830シリーズと比べて低く抑えられている他使わないときは消費電力を抑えるような仕組みを搭載している特長があります。

ICHがICH3-MからICH4-Mに変更されたのでIntelのモバイル向けチップセットとしては初めてUSB 2.0に対応しました。特にモバイルパソコンではUSBは主要な外部バスなのでこれが高速化した意義は大きいと思われます。

855シリーズPC2700への対応モデルを追加しては複数のラインナップがあります。

製品名 855PM 855PM(B-step) 855GM 855GME
グラフィックコア × ×
PC2700 × ×

※基本的にPC2700への対応の有無なのだが855PMはリビジョンの変更で855GMは新チップセットとしてリリースという具合に扱いの違いがあるので紛らわしい。

855PMと855GM

通常は同じシリーズでグラフィック内臓とグラフィック非内臓のチップセットは同じコアを選別してハードウェアスイッチで有効にするか無効にするかして出荷していることがほとんどです。このチップセットも機能表を比べるとグラフィックアクセラレータの有無しか差がないように見えます。しかし、この二つは全くことなるものから作られているものです。

と、言うのもこの二つは開発コードネームが異なるものだからです。例えば865チップセットではグラフィックなし版の開発コードネームが『Springdale-P』でなし版の開発コードネームが『Springdale-P』となっていてともに『Springdale』となっているのに対して855PMの開発コードネームは『Odem』で855GMの開発コードネームは『Montara-GM』となっていてもとから異なるチップセットであっただろうことが伺えます。ちなみにモバイルPentium 4向けチップセットの852GMの開発コードネームが『Montara-GML』なのでこれは855と同じダイからできていると思われます。なお855GMは852GMよりもグラフィックコアの周波数や性能が上なのでそのあたりで選別していると思われます。

選別について詳しくはCPUの『Column 03』を参照してください。

852シリーズには852PMというチップセットがあっていかにもこっちは855PMの~という雰囲気ですが、こちらも開発コードネームが『Montara-P』となっていて852GMのグラフィック無効版ということでしょう。つまり、855PMはPentiumM専用に作られたしかも最初からグラフィックを内臓していないチップセットだということがわかります。

また、815や830の他845などのチップセットはどれもピン数が同じになっていてピン互換があります。ところが、855PMは593ピンに対して855GMは732ピンとなっていて異なるのです。ちなみに852シリーズは852PMも含めて全て732ピンとなっていてかなり近い存在であることがわかります(まぁ開発コードネームSpringdaleとCanterwoodの二つのチップセットはピン数も異なるが実は同じダイから作っているということが知られているのでこれだけでは決め手にはならないが。)

結局のところどうせ違いがないんじゃそんな違いは関係ないじゃんと思われるかもしれませんが、実はそうでもないのです。つまり、最初からグラフィックコアを内臓しないことを前提につくられた855PMは今までの様に単にグラフィック機能を無効にしていたチップセットに対してダイサイズが小さい(チップそのものは大体同じ大きさだが回路の大きさとなるダイサイズが小さい)ので消費する電力が抑えられるということです。単に無効になっているだけだとそれほど消費電力に差がないので追加したグラフィックチップを分まるまる消費電力が上がるのは目に見えていたのですが、この855PMはグラフィック機能分の消費電力が少ないのでグラフィックチップを別に搭載してもグラフィック統合チップセットを使う場合と比べてそれほど消費電力に影響がないということなのです(場合によっては互角かそれ以上に低くなるという話も)。

さらに、855PMはPentium Mを開発した設計グループが一緒に開発したということでまさしくPentium M専用になっていて消費電力を下げる最適化をかなり進めているのに対して855GMはモバイルPentium4と兼用に作られたダイを使ったチップセット(855GM自体はバスなどをPentium M用にしているのでPentium M専用ではあるが)となっていて消費電力を855PMのように低くできていないようなのです(もちろんグラフィック分を差し引いても)。

で、何が言いたいかってことですが855PMというチップセットがあるおかげでグラフィックコアを別にしたモバイルパソコンの消費電力が今まで以上に低く抑えられているので意外にお得だよってことです(性能的に)。もちろん性能を考えなければチップセット内臓の方が消費電力を抑えることできる場合も多いでしょうし大きさの問題もあると思われますが、いずれにせよ高性能なグラフィックコアが欲しい場合にはPentiumMと855PMという組み合わせはすばらしいペアなのです。

残念ながら次のPentium M用チップセットとなるAlvisoはMontaraの後継となり、Odemの後継は登場しないようです(Alvisoのグラフィックコアを無効にして対応)。このAlvisoはPentiumMにさらに最適化してくることが予想されるので855PMのように消費電力を低く抑えてくる可能性はありますが、グラフィックコア非内臓版に限って見ると855PMほど効率よくはなくなってしまうと思われます。